北海道の地に初めて足を踏み入れたのは、スケッチブックの旅の数年前でした。小樽へ帰郷した友人と札幌に転勤した友人に誘われて北の大地に渡りました。

 夜の青函連絡船に乗り函館港についた時には、函館の空はまだ夜明け前の青が残っていました。今は違うと思いますが、当時は朝市も木造建屋の雑多な感じで、朝市の端っこにあった小屋のような食堂で何丼だったのか丼を食べた記憶があります。

 函館の街を歩きました。十字街、東京でよく通っていた喫茶店と同じ名前のパン屋さんに親近感を覚えました。路面電車が走り、整った街並みの家々はこじんまりしていました。

 家々の軒先には、プランターに色とりどりの花が植えられていて、長い冬の生活に耐えた北国の人たちの夏を楽しむ気持ちが伝わってくるようでした。

 函館も小樽のように坂の街だったと思います。有名な五稜郭は歩いてみるとあの見事な星形がわからなくてただ広い公園のように思えました。

 魚の匂いと海鳥と野良猫、小さな船が並んだ漁港などを見ながら立待岬まで歩きました。岬への長い坂道の途中、海を見下ろすように石川啄木一族の墓が建っていました。

 函館観光を終えて、函館本線に乗りいよいよ友人のいる小樽を目指しました。途中長万部で駅弁を買ったのは良かったのですが、名物は「かにめし」弁当と言うことを知らず、蕎麦の弁当を買ってしまいました。でも凄くおいしかったです。

 函館から海沿いを走っていた函館本線は長万部を過ぎると内陸に入ります。列車は深い森の中を突っ走り、車窓を覆う圧倒的な緑の美しさに目を洗われるようでした。

 折れた木々が横たわる原始林のような森の中、護岸のない川が草木の間を水量豊かに流れています。自然がそのまま残ったような車窓の風景は私を魅了し続けました。

 木々の向こうに時々見える赤や青の屋根の牧舎や家々を見ていると、ああ北海道へ来たんだなぁと思えてくるのでした。


 冒頭の牧舎の絵は、その時ではなく二回目のスケッチの旅の時に描いたものですが、函館本線の車窓からもこんな牧舎が見えていたように思います。

 すっかり記憶がないのですが、この絵は日高地域、平取町(ぴらとりちょう)というところで描いたものです。スケッチブックの絵の裏に「平取町」としるしています。

 苫小牧・日高方面に行ったことさえ記憶がなくて、この絵が出てくるまでその辺りは未知の所だと思い込んでいました。

 日高線は今は苫小牧から鵡川までですが、かつては苫小牧から様似までありました。利用者減と2015年1月に発生した高波の被害が原因で様似から鵡川までの116キロが廃線となったようです。

札幌~苫小牧車内にて

 なぜこの地へ行ったのか、思い出すと襟裳岬を目指したのではなかったかと思います。友人に襟裳岬なんて何もないからやめておけと言われたのに決行したような気がします。

 調べると当時は、日高線富川という駅から平取町へのバス路線があったようです。そしてこの平取町はアイヌ文化の拠点の一つだそうです。それでこの町を目指したのかは思い出せません。

 また、同じ日だったのか別の日だったのか、北海道へ嫁いだ同級生に会うために電車に乗った記憶もあります。その時、どういう路線を利用したのか全く記憶がありません。

 彼女の住む大樹町は、今は廃線になった広尾線にあり当時ブームになっていた幸福駅や愛国駅の近くだと聞いていました。

 日高線を様似まで行き、バスで襟裳岬を回って広尾線に乗り継ごうとしたのか、あるいは去年の9月の時、利用したように札幌から帯広を目指したのか、それともその両方だったのか今となっては思い出せません。

 いずれにしても鈍行しか利用しなかった私は、途中でその行き先の遠さに観念してあきらめたのは事実です。東京の距離感と北海道のそれとはあまりにも違いすぎました。


 去年の9月、このとき未遂に終わった同級生に会いに行く旅を果たしました。その時、妻と一緒にレンタカーで走った国道236号線沿いには、いくつも牧舎や農家を見かけました。平らな大地に近代的な建物が建っていて、そこには大きなトラクターやピックアップトラックなどが止まっていました。


 北海道の旅、私は去年の旅を含めると都合5回行っています。どの旅も素晴らしい思い出がありますが、やはり1度目と2度目の印象が強いです。とくに内地では見ることが出来ない景色の美しさと雄大さに強く惹かれました。

 3度目は新婚旅行、4度目は家族旅行、そしてこの前のシルバー旅行。いずれも気ままな一人旅ではありませんでした。しかし、それにしてもおかしいと思ったのは、景色の雄大さは変わりないのに、緑の美しさに以前ほど感動しない自分がいた事です。

 原因を考えてみるに、一回目の旅と二回目の旅は東京からでした。それ以降は今住む滋賀の田舎からです。東京で暮らしていた私はそれほど緑に飢えていたのかも知れません。

 私の住む町は田舎です。北海道ほど雄大ではありませんが、緑は豊富です。また空気も多少は汚れていますが東京ほどではありません。たぶん、この差が原因ではないかと思います。



画面では平取町が表示されていませんが、プラスボタンを押すと地図が拡大されて表示されます。



 お彼岸の中日を過ぎたというのに、雪がうっすら積もる寒さに震え上がっています。今年の春はまだ遠そうです。

 JAZZの曲で春に関連の曲、意外と少なく思います。そんな中で見つけたSpring Is Here しみじみと語りかけるクリス・コナーの歌を聞きながら春を待ちたいと思います。