朝晩が涼しくなってきました。再開してもなかなか調子が出なかった散歩、一年経って衰えたかなと思ってましたが、ここ数日の朝の冷えた空気とさわやかな朝日が気持ちよく足取りも軽くなってきました。

 
 さて、北海道の旅の最後が残っていました。最後は友人Sが住む小樽です。小樽は思い出深い街です。若かりし頃、Sの家に居候させてもらってあの坂道の多い街を歩き回りました。

 帯広からやはり特急とかちで札幌まで、そこから小樽まで快速エアポートに乗り換えました。鈍行でゆっくり車窓の風景を楽しみたかったのですが、1時間かかりますしSが小樽で待っていました。

 昔、小樽から札幌に出る時、またその反対に小樽に戻る時この路線を何度も利用しました。私の記憶には車窓から見える石狩湾の海しかありませんでした。しかし実際に乗ってみると札幌を出てもなかなか海は見えてきませんでした。


 銭函あたりからだったでしょうか、ようやく小樽の海が見えてきました。

 銭函(ぜにばこ)、面白い駅名です。昔、ホームの天井に銭函がぶら下げられていたのを覚えています。妻に見せたかったのですが、窓が反対側だったこともあり気づいたときは通り過ぎていました。

 帰ってから調べると銭函駅、駅舎も当然のこと建て替えられていましたし、釣り下がっていた銭函は危険ということで台の上に置かれるようになっていました。


 石狩湾に傾きかけた日がかすかにさしていました。


 ちょっと寂しい海の風景が小樽には似合う気がします。

 懐かしい小樽築港の駅名、そしてあっという間に車窓の海の景色は終わりました。私の記憶では海の景色がもっと長かった気がしたのですが、乗った列車が快速だったからかもしれません。

 小樽駅ではS夫妻が改札近くで出迎えてくれました。Sとは大学時代からの付き合いなのでもう50年ほどになります。お互い社会へ出るようになっても行き来は続いています。

 東京にいる時、彼は何度も新幹線を利用して私のアパートに来ましたし、田舎に戻ってからも家を訪ねてくれたり京都に寄ったついでに滋賀にも来てくれています。

 ホテルにチェックインして彼が予約していてくれている小樽バインというお店で再会の祝杯を挙げました。二人と会うのは妻は30年ぶりですが、私は2016年に夫妻が滋賀に来てくれた時に会っているのでそれ以来です。

 懐かしく温かい小樽弁は変わりありませんが、Sの頭髪が思ったより寂しくなっていましたし、少し痩せたように思いました。次々に出てくる料理をいただきながら、お互いの近況などを話しました。

 地元ワインの販売も併設している広いお店は、石造りの建物を改装したおしゃれな内装で、時にコンサートなども催されるのだそうです。


 ライトアップされた日本銀行旧小樽支店です。

 夜の8時半ごろでしたでしょうか。すっかりごちそうになって外へ出ると肌寒く、ホテルまでの道のり小樽の坂道に吹く風が半袖Tシャツ姿には寒くて驚きました。今回の旅行で初めて味わった北海道の気候でした。
 


 翌朝は北海道へ来て一番の快晴でした。ホテルの朝食会場の窓から小樽の街と海を撮ったところです。手前のワイングラスは、夜に供されるもののようです。


 朝食を済ませた私たちは、Sが迎えに来てくれるまでの間、小樽の街を散策しました。まずホテルから歩いてすぐの手宮線跡を線路伝いに歩きました。






 何のお店なのか、沿線に沿って面白そうなお店が並んでいました。


 どこかのお宅の塀にスズメたち。線路跡は細長い公園のようになっていて車通りもなく静かです。私たちと同じように散歩している観光客の姿がありました。


 小樽の街はどっちを向いても坂道ばかりです。妻も小樽は3度目なのですが、何度来ても同じ感想を持つようです。自転車の人はほとんどなく、皆さん歩いておられます。毎日ここを歩いたら足腰が鍛えられるだろうと妻は言います。

 ぐるっと回ってホテルに戻り、お土産やいらない荷物を宅配便で送ってチェックアウトです。約束通り8時半ちょうどにSが車で迎えに来てくれました。

 帰るまでの数時間、Sはあちこちを車で案内してくれました。まず小樽運河沿いです。私が50年ほど前、初めて小樽に来た頃は運河はもっと幅が広くて一帯は廃れ見捨てられたようでした。その趣がまた良かったのです。

 今は運河は半分埋められて遊歩道ができてきれいに整備されています。そして小樽一番の観光スポットになっています。

 運河沿いのレンガ倉庫も昔に比べて少なくなっている気がしました。レンガ倉庫から運河を挟んで向かい側に、30年前私たち家族が泊まったホテルがありました。当時は新築でピンク色を基調にしたかわいい感じの外観でしたが、年月を経て今ではすっかり街になじみ、風格さえ感じられました。

 次に三角市場に寄ってくれました。いつもは人でにぎわうところらしいですが、朝まだ早い時間だったので客の姿はまばらでした。

 妻は市場のお店を見て回って土産をいくつか買いました。新鮮な鮭やたらこ、大きな切り身のわりにお値段が安かったです。その市場の中に海鮮丼を出しているお店がありました。こんなところで食べたらおいしいだろうなと二人で言いながら食事時ではないのが残念でした。


 二人とも行ったことがないと言うのでニシン御殿に寄ってくれました。お天気は良かったのですが、坂道がきつくてまたしてもニシン御殿の全景を撮りそこないました。上の写真はニシン御殿の中で唯一撮った写真です。


 ニシン御殿は高いところにあり、青い海が見渡せました。ここで妻が珍しく私とSの写真を青い海をバックに撮ってくれました。


 トド岩です。トドが寝そべっている姿にも見えるのでそう言われるのだと思ったら、この岩に冬になるとトドが集まるのでそう言われているのだそうです。

 
  今夏の異常気象は北海道にもあって、生まれも育ちも小樽のSもこの暑さや湿度は初めてだと言っていました。

 私たちが帰って一週間もしない間に小樽に大雨が襲い150戸余りが被害にあったそうです。ニシン御殿も高台にあるので手前の土手が崩れ休館になったそうです。


 富岡教会へ行きたいと言っていたので寄ってくれました。見覚えがあります。しかし、昔小樽滞在中、スケッチした教会の姿と違って見えました。記憶を確かめようと旅行から帰って、古いスケッチブックを探しましたが、肝心の教会の絵が見当たりませんでした。

 Sの車は私たちを乗せて小樽の街をあちらこちらへと走ります。その車窓から小樽の街並みを眺めていると、見覚えのものなどあるはずもないのに、一つ一つの坂や街角が見覚えのあるように思えてきます。車を降りて一人で昔のように歩いてみたくなりました。

 Sの車はさらに坂道を登って天狗山への曲がりくねった道に入りました。最近、その手前で熊が出たそうです。確かに熊でも出てきそうな草木が生い茂った道が続いていました。

 天狗山展望台にはロープウェイもありますが、昔もSに車で連れてきてもらったような気がしていました。しかし、いざ上がってみると印象は全然違っていました。

 こんなに木々がなくてもっと平らなところだった気がするのです。どこかほかのところと勘違いしているのか、それとも50年近くたって周りの景色がすっかり変わってしまったのか、記憶がかなりあいまいになってます。


 天狗山展望台からの眺望


 海と小樽の街が見下ろせました。

 青空と青い海を眺めながら、展望台のベンチでしばらくゆっくりしていました。飛行機に乗らないといけない時間が迫っています。ずっとそうしていたいような気がして、この旅で初めて帰りたく無いと思いました。

 Sの車は坂道を下り小樽の街を通り抜け、高速を新千歳空港まで車を飛ばしてくれました。行きのHと言い、帰りのSと言い、空港までわざわざ送り迎えしてくれ、エスコンフィールドや小樽をあちこち案内してくれました。

 私たち夫婦にとっては本当に至れり尽くせりの旅でした。空港の発着ゲート近くまで送ってくれたSに、またの再会を約束して別れました。



 昨日も今日も少し肌寒いけれどお天気が良くて気持ちの良い朝でした。朝日のごとくではなく、さわやかな朝日そのものでした。こんな時は、「朝日のようにさわやかに」が聞きたくなってしまいます。この曲もいくつもの名唱名演奏があるのですが、今回もやはりウィントン・ケリーの演奏です。